大学・院生の部1位は、池田ありささん。東京音楽大学ミュージック・リベラルアーツ(MLA)専攻の1年生(エントリー当時)です。大学の試験期間中、合間をぬってお話を聞かせてくれました。
池田ありささん
「たくさんの素晴らしい先生方に審査していただけて、且つ点数や講評が公開され公平性、透明性がある。自分の実力を客観的に判断する良いチャンス」と思い、エントリーしたありささん。全国大会で演奏したのは、長いあいだ勉強してきたスクリャービンの1曲。「たくさんの思いが詰まったこの曲を聴いていただきたいと思っていたので、ちゃんと弾けてよかったなとホッとしました」と当日を振り返ります。これまでもコンクールには出場し受賞経験はあるものの、“1位”は今回が初めて。「そろそろ1位を、という危機感や焦りがあって、すこしピリピリしていた(笑)」とありささん。だからこそ、「やっと、ひとつの結果を出すことができた。とっても嬉しかった」と話します。「これまでご指導いただいた佐藤先生、稲田先生、三浦先生に感謝の気持ちでいっぱいです。いつもそばで応援してくれている両親も、胴上げ!みたいな感じで(笑)すごく喜んでくれました」と、喜びをかみしめます。
初めてピアノに触れたのは、幼稚園のころ。通っていた東京音楽大附属幼稚園には、自分が興味を持った楽器のレッスンを受けられるカリキュラムがあり、「ボタンを押すのが好きで、似ているなと思ってピアノを選んだことを覚えています」。そのころは遊びの一環で楽しんでいましたが、「このさきも楽しく続けるためには、どんな先生についたらいいか」とお母さんが園長先生に相談したところ、付属音楽教室で室長をされていた三浦捷子先生を紹介され、小学校1年生から指導を受けることになりました。
6歳の発表会
「三浦先生には音楽のことを何も知らなかったころから指導していただいているので、わたしにとっては第二の母のような存在。それに、わたしの知らない世界を何でもご存知で、ピアノのテクニック以外のこともたくさん教えてくださいます」。最近はコンクール前などにレッスンを受けるほどですが、より先生との時間が貴重でありがたいものだと感じていると言います。
昨年春に、東京音楽大学附属高等学校を卒業、東京音楽大学に入学しました。「高校から師事している佐藤先生と稲田先生には、音を出すときのイメージや体の使い方の繊細なところまでご指導いただき、研究する楽しさを教えていただいています」とありささん。友人との出会いも貴重なものばかりで「友だちは強い意志と覚悟を決めて生きていて、⻑時間の練習を当たり前にこなしている。そんな姿を見て自分の心を切り替えています。それに、違う専攻の友だちとも知りあってアンサンブルをして、音楽の違う楽しみを知ることもできました」。友人たちから刺激を受け、ありささんも意志を強く持って取り組めるよう自分なりの練習時間割をつくったり、集中して練習するよう短めの休憩を計画的に入れたりして、工夫しています。
「舞台でスポットライトを浴びることが好きだから、舞台に立つために練習を続けているという感じ。以前は、練習が嫌で不安を抱えたまま舞台に立って……やばい……となってしまった時期があって(笑)。いい演奏ができそうにない、という不安が悪い緊張につながって、舞台に立っているあいだ、耳が聴こえなくなってしまうようなこともありました。いまは、ちゃんと練習することが、本番の自分の味方になると思えるようになりました。もちろん緊張はするけれど、生きていることを実感できて楽しいし、舞台に立って、演奏を聴いていただくことは、わたしの生き甲斐です」
大学では、いずれ留学することも視野にいれ、語学も頑張っています。通っている東京音大のMLA専攻は、英語での講義が多い専攻のため、まずは英語を身につけることが目標です。「将来的には、今までやってきたことを活かしつつ、何にでも対応して幅広く活躍したいです。ソロはもちろん、アンサンブルしたり伴奏したりするのも好き。いつか世界的なミュージシャンと共演もできたらいいな。クラシック音楽は、なんだか格が高くて堅苦しいイメージがある、という意見をも覆せるように、クラシックがもっと広く愛されるジャンルになるように、親しみを持ってもらえる演奏家になりたいです」。ありささん自身、ピアノを弾くのはもちろん、アイドルやバンドのライブなどに行くのも好きで、、いろいろなジャンルの音楽を楽しんでいます。「音楽は、わたしを彩る大切なもの」とありささん。
ハンガリーにてリストが弾いたピアノの前で
小学校4年生、北海道での室内楽マスタークラス
さらに、ありささんには大きな夢があります。それは、「指揮者の山田和樹さんと共演すること」。中学1年生のとき、ありささんは初めて山田さん指揮のベートベン『第九』を聴きました。「生まれてはじめて、音楽を聴いて泣いたんです。わぁ!こんなに素敵なものなんだ、音楽は!と。そのときに座ったのが、オーケストラの方の表情も指揮者の方の表情も見える客席で、わぁ心が通っているな!と。ピアノでオーケストラに入るとしたら、指揮者と目配せをしながら演奏をすることになるから、いつかビッグになって、山田さんと目をあわせながら弾きたい! それができたら、我が人生に悔いなしです!」
明るくすてきな笑顔で終始お話をしてくださって、インタビューは和やかに進みました。そのなかにも意志の強さが感じられ、描いた夢や目標を一つひとつ着実に実現していく姿が想像できるようでした。ありささんと山田さんとの共演、わたしたちも楽しみにしています。
※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※インタビューは1月下旬に行いました。
全国大会での池田ありささんの演奏はこちら。