全日本ピアノコンクール

吉田知史さん

小学生高学年の部で最優秀賞を受賞したのは、吉田知史(ちふみ)さん。お母さまと3歳年下の妹さんの明るく元気な笑顔があふれる和やかな雰囲気のなか、少し緊張した面持ちでインタビューに応じてくれました。

吉田知史さん

知史さんがピアノの世界に足を踏み入れたのは、3歳の頃。きっかけは、3歳年上のお姉さんがピアノを習い始めたことでした。お姉さんのレッスンに一緒について行くなかで、自然とピアノに興味を持つようになったそうです。「姉のレッスンを見ているうちに、『私もやりたい!』と言い出しました」と、お母さまは当時の様子を微笑みながら振り返ります。先生からは「まずは右手と左手が分かるようになってから始めましょうね」と言われたそうですが、知史さんの「やりたい!」という気持ちは募るばかり。何度も猛アピールする熱意に、先生も根負けしたのかもしれません。始めた頃は、右手と左手が分かるように、楽譜に赤と青の色を書き込んで練習を進めたそうです。

遊び感覚でピアノに親しんでいた知史さんですが、「小学校に入った頃から、少しずつ練習時間が増えてきたかなと思います」とお母さま。知史さん自身が真剣にやり始めたと感じているのは、小学4年生の頃のようです。

「コンクールに出るようになって、自然と練習時間が増えていきましたね」というお母さまの言葉通り、目標を持つことで練習への意識も変わっていきました。

師事する角野美智子先生、中塚遥子先生と記念撮影

知史さんがコンクールに出場するようになったのは、先生からのすすめと、やはりお姉さんの影響が大きかったそう。

今回のコンクールで取り組んだ曲では、苦労もあったようです。特に、レシェティツキの曲では、左手のアルペジオ(分散和音)の表現に苦労したと言います。「左手の伴奏が、どこか一音だけ飛び出てしまわないように、均一に、そして美しく響かせるのが難しかったです。そこはたくさん練習しました」と知史さん。

先生からは細かいペダルの使い方や「フレーズを長く感じて、メロディーを美しく響かせること」などについてアドバイスを受けたそうです。

本番では、素晴らしい響きのホールで演奏できたことが、知史さんにとって最高の経験となったようです。「弾いていてとても気持ちよかったです!」と、目を輝かせながら話してくれました。

3歳からバイオリンも習っている

新しい曲に取り組むのが特に好きだという知史さん。「新しい曲の譜読みは楽しいです。色々な曲を知りたいし、弾けるようになっていくのが面白い。同じ曲をずっと弾いていると、ちょっと飽きてきちゃう時もあります」と、素直な気持ちを話してくれました。

また、ピアノだけでなく、他の楽器にも興味津々です。実は、バイオリンも習っているとのこと。「どっちが好きかと聞かれると困るけど…どっちも同じくらい好き!」だそうです。さまざまな楽器の音色や仕組みにも関心がある様子で、「楽器を作る事にも興味があるみたいです」とお母さまが教えてくれました。

2024年度は3歳年下の妹さんと連弾にも挑戦

知史さんの日常は、ピアノだけでなく、バイオリンやバレエ、そして以前は日本舞踊も習っていたという、まさに芸術に彩られています。

また休日には、ご姉妹やお母さまと連弾を楽しむこともあるそう。「今年のお正月に、3姉妹で6手連弾(3人で1台のピアノを弾く)に挑戦しました。3人並んで『狭い!』『もっとあっち行って!』などと言いながらやっていました(笑)」とお母さま。

また知史さんは、幼い頃から、街中や店内で音楽が流れてくると踊り出したり、真似して歌ったり…日常の些細な音にも、豊かな音楽性で反応してしまうのだとか。「そういう風に聞こえているのかと、見ていて面白いです」とお母さまは笑います。賑やかで仲の良い家庭の様子が目の前に広がるようです。

将来の夢について尋ねると、知史さんは少し考えてから、「楽器職人か、ピアニスト。それに、作曲やジャズもやってみたいです!」と答えてくれました。

「今の目標は?」という問いには、「基礎力をつけること!」と力強い答えが返ってきました。表現したい音楽をより自由に奏でるために、基礎の大切さをしっかりと理解しているようです。

インタビューの最後に、改めて「これからどんな演奏をしたいですか?」と尋ねると、知史さんは少し間を置いて、まっすぐな目でこう答えてくれました。「聞いてくださる人に、その曲から感じたことが伝わるように弾きたいです」。

以前、入賞者コンサートで演奏した後に、見知らぬお客様から「あなた、良かったわよ!」とハグされた経験があり、とても驚きましたが大変嬉しかったそうです。その経験が、今の目標に繋がっているのかもしれません。

音楽の楽しさを全身で感じ、表現する喜びを知っている知史さん。基礎練習は時に地道で大変だと感じながらも、「聞いている人を楽しませたい」「自分の感じたことを音楽で伝えたい」という強い思いが、日々の努力を支えています。これからどんな音色を、どんな夢を奏でていくのか、楽しみに応援していきたいですね。

 

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