全日本ピアノコンクール

半田珠璃さん

高校生部門1位に輝いたのは、広島女学院高等学校3年生の半田珠璃さんです。この一年はステージでの演奏経験を積みたいと考えていたところ、師事する小蔦寛二先生にすすめられエントリーを決めました。結果には、先生もご家族もとても喜んでくれたと言います。
受験を間近にひかえた昼さがり、リラックスした雰囲気のなかインタビューにこたえてくれました。

半田珠璃さん

「わたしは、昨日と今日で演奏が変わるタイプなんです」と珠璃さん。それは成長という意味もあるけれど、その日によって音の雰囲気が違うということ。全国大会の会場となったみなとみらいホールは、とても素敵なホールで感激しながら楽しんで演奏できたものの、「正直に言うと、100%満足のいくものではなかった」と振り返ります。でも、審査員からは「丁寧で細部まで行き届き、成熟した演奏」と高く評価されました。だからこそ「素晴らしい賞をいただき、光栄に思います」と笑顔を見せます。

全国大会で演奏したラヴェル作曲『ラ・ヴァルス』は、珠璃さんが好きな曲のひとつです。2年前にはじめて弾いて、その後、6歳から師事している沢田菊江先生のコンサートで演奏したり、小蔦先生と2台ピアノで演奏したりしたこともあります。こうした経験を重ねて、「音色や音楽の構成をより深めることができたのだと思います」。
ピアノを弾くことが好きなので、これまでは技術的に上達することに焦点をあてていましたが、“音楽は魅力的な音色を奏でることに意味がある”と気づき、耳をよくつかって音色にこだわって練習しています。また最近は、自分の演奏を俯瞰して指導しながら練習する方法を取り入れています。演奏する自分と指導する自分、二役をこなしながら自分を客観的に見つめていくことで、“表現しているつもり”や“伝えているつもり”をなくす努力をしています。

珠璃さんは、2歳10か月でピアノをはじめました。お母さんは珠璃さんが3歳になったらはじめさせようと考えていましたが、さきにピアノを習っていたふたりのお兄さんが横に座って教えてくれて、3歳になるまえにはピアノを弾いていました。そのお兄さんたちは現在、それぞれトロンボーンとトランペットを吹いています。珠璃さんの演奏動画を観ては、よくなった点を誉めてくれたり、さらによくなるようにアドバイスをくれたり。お兄さんたちとは成長した今も、音楽の話をします。お母さんはピアノの先生、お父さんも音楽が好きで、珠璃さんが小さなころから家庭には音楽があふれていました。

6歳のころ、発表会で

トランペットを吹く兄と共演

ピアノはもちろん好きだけれど、「ほかにもいろいろ好きなことがあるんです」。勉強することや本を読むことも好きです。これまで読んだ本で印象に残っているのは、『クローズアップ藝大(河出書房新書)』の中で、師事する江口玲先生が語っていた「自分が世界でたったひとりの存在であると自覚したうえで音楽を表現する」ということです。ほかの人がどう弾いているか、他人から言われたからこう弾く、のではなく「こう弾きたい、という自分の意志をもって演奏したり表現したりすることが大事」ということを、心に留めています。
運動も好きで、「朝、からだを動かすと気持ちがいいから」とランニングをしてから学校に行くことも。上手に気分転換できているのは、「ピアノの練習ばかりじゃなく、それ以外に感性を磨くことも大事にしたいから」。でも一方で、「練習あるのみ、という気もするし……笑」と、模索しながらピアノに向きあう18歳です。

朝のランニングで気分転換

「ピアノを続けるなかで思いどおりにいかないことがあったとしても、それは次のステップに上がるために必要なものだととらえています。だから、どんな経験もすべてが自分を構成する要素」と珠璃さんは言います。「まだ知らない音がたくさんあると思うので、作曲家やジャンルを問わず、さまざまな作品や楽器をたくさん勉強して、ピアノの素敵な音色を奏でられるようになりたい」と意欲的です。

将来は、“ピアノを弾くのが好きだから演奏家”という道と、“バトンをつなぐという意味で指導者”という道、どちらの選択肢も見えていますが、珠璃さんが目指すのは、「音楽で世界中を幸せにすることのできる人。音楽は人の感情を動かすことができるもの。だから、音楽を通して幸せを感じてもらいたい」。

夢は音楽で世界を幸せに

今後は大学で音楽を学び、いずれ留学も考えています。「ヨーロッパもいいし、小さいころに家のなかでよく流れていたからジャズが好きで……だからアメリカもいいな」。
これからもずっと音楽に触れていたい、それが珠璃さんの想いです。

 

全国大会で演奏した『ラ・ヴァルス』では、繊細さはもちろんダイナミックさや力強さも表現していた珠璃さんですが、お話するときのとてもやわらかな表情が印象的でした。
ピアノとの向きあいかた、好きなもの、留学先……いろいろな思いをめぐらせる様子には高校生らしさを感じますが、そのなかで“こうしたい”とか“こうありたい”という自分の意志を大事にしながらいい選択をしようとする姿は、とても頼もしくもあります。珠璃さんの音楽で幸せあふれる未来、楽しみです。

※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※インタビューは1月下旬に行いました。

全国大会での半田珠璃さんの演奏はこちら