連弾:U9部門 金賞は、当時小学3年生だった石橋明莉(あかり)さん、櫻庭羽菜(はな)さんペア。インタビュー時は連弾の合わせ練習の日で、少し時間をいただいて、二人にお話をうかがいました。
左から石橋明莉さん、櫻庭羽菜さん
二人の出会いは、ヤマハ音楽教室のエレクトーングループレッスン。保育園の年中の頃です。お母さまに連れられて体験レッスンに参加したことが、すべての始まりでした。
「体験レッスンが楽しかったのでエレクトーングループレッスンを始めたのですが、ピアノも弾いてみたかったので、個人レッスンも始めました」と羽菜さん。そのきっかけは意外にも、「YouTubeで、自分と同じくらいの年齢の子がエレクトーンとピアノを上手に弾いているのを見て、すごいな、私もやってみたいなって憧れたんです」とのこと。
一方の明莉さんは、「ヤマハのグループレッスンを始めたあと、羽菜ちゃんが個人のピアノレッスンを受けているのを見て、私もやってみたいって思ったんです。」明莉さんのお母さまも「羽菜ちゃんがコンクールに出るのを見て、『じゃあ、明莉もやってみようか』というように、いつも羽菜ちゃんの背中を追いかけるようにして、新しいことに挑戦してきたように思います」と語ります。
こうして、二人は同じ先生のもとで、個人レッスンでも切磋琢磨する仲間となりました。
そんな二人の普段の練習時間は、それぞれの生活スタイルに合わせて異なります。
明莉さんは「普段は何もイベントとかがなければ毎日練習します。平日は45分くらいで、土日は1時間くらいです」と、コツコツと努力を積み重ねるタイプ。一方、羽菜さんは週3回の塾通いとピアノで大忙し。「塾がある日はあまり弾けない時もありますが、塾がない日は2時間、土日はもっと長く練習しています」と羽菜さん。小学4年生になり、中学受験という目標も視野に入れ始めた今、限られた時間の中でいかに効率よく練習するか、試行錯誤の毎日のようです。それでも「ピアノは好き」と即答するその瞳は、確かな意志の強さを感じさせました。
全日本ピアノコンクールブロック大会での様子
今回のコンクールで初めてペアを組んだ二人ですが、それまでにもそれぞれ別のお友達と連弾を経験したことはありました。「グループレッスンの仲間は、みんな仲が良いんです。だから、今度は誰と組もうか、という話になるのですが、3年生になった時、一緒に弾いてみたかった羽菜ちゃんに『一緒にやろう』ってお願いしたんです」と明莉さん。その小さな勇気が、最高のパートナーシップの始まりでした。
曲が決まったのは、コンクールの約8ヶ月前。そこから、連弾のレッスンは月に数回の先生とのレッスン。それに加えて、月に3、4回は二人で合わせ練習の時間を設けたと言います。1台のピアノで、二人がひとつの音楽を創り上げる連弾は、個々の技術はもちろんのこと、互いの呼吸を感じ取り、心をひとつにすることが何よりも重要になります。その過程で、二人は大きな壁にぶつかりました。
全日本ピアノコンクール全国大会での演奏
「二人でテンポをだんだんゆっくりさせていくrit(リタルダンド)の部分が、ずっとどうしても合わなくて」と明莉さんは語ります。一人で弾くのとは違い、相手の感覚を読み取り、寄り添わなければならない難しさに直面し、先生からも何度も注意を受けたと言います。この課題を克服するために、二人は様々な工夫を凝らしました。「お互いのパートをそれぞれ録音して、家に持ち帰って、相手の音源を流しながら自分のパートを練習しました」と羽菜さん。家にいても、まるで隣にパートナーがいるかのように練習を重ねたのです。
明莉さんは「私はリズムを合わせるのが苦手なので、とにかくメトロノームを使ってテンポ感を体に染み込ませました」と語ります。地道な努力を重ねる中で、体の動きで表現するなど息を合わせるためのコツを身につけていきました。
そして迎えた本番のステージ。あれほど苦労したritの部分も、本番ではぴったりと息が合いました。「弾き終わった時、二人とも『全体的によくできたな』っていう感触がありました」と声を揃えます。
師事している奥田先生と金賞受賞の記念撮影
コンクールから数ヶ月が経ち、二人の挑戦は今も続いています。ペアは継続し、現在は新しい曲に取り組んでいますが、驚くことに、新しい曲の合わせは以前よりも格段にスムーズに進んでいるそう。「二人とも少し成長したんだと思います」と、二人のお母さまも喜びの声を聞かせてくれました。
ヤマハエレクトーンのアンサンブルフェスティバルでも金賞や特別賞を受賞している
今も続けているヤマハのグループレッスンでは、6人でエレクトーンのアンサンブルにも挑戦しています。「6人で息を合わせるのはもっと難しいです。それにエレクトーンは音色を変えたりする操作もあって大変ですけど、みんなで一つの音楽を作るのはとても楽しいです」と、二人は目を輝かせます。ピアノだけでなく、様々な形で音楽の楽しさ、そして難しさに触れることが、二人の表現力をさらに豊かなものにしているのでしょう。
ちなみに、ピアノ以外の時間は、明莉さんはマインクラフトなどのゲームを、羽菜さんは「Snow Man」の“推し活”を楽しんでいるという、今どきの小学生らしい一面も覗かせてくれました。やるべきことをきちんと終えてから、自分の好きなことに没頭する。そんなメリハリのある毎日が、二人の集中力と豊かな感性を育んでいるのかもしれません。
そんな二人に、これからの目標を尋ねました。明莉さんは「今年の連弾でも全国大会に行って、金賞を獲ることです」。それを聞いて、羽菜さんが「私も、同じです」と力強く答えます。ペア結成2年目、さらなる高みを目指す二人のハーモニーは、きっと昨年以上に磨き抜かれた、美しい響きを奏でてくれることでしょう。
また羽菜さんは、もう一つ大切な目標として「ピアノと勉強を、うまく両立できるようになること」を挙げてくれました。
将来の夢については、二人とも「まだ具体的には決まっていないけれど」と前置きしながらも、「ピアノはこれからもずっと続けていきたいです」と、きっぱりと言い切りました。ピアノは、もはや彼女たちの人生の一部なのです。
幼なじみとして出会い、良きライバルとして、そして最高のパートナーとして共に成長を続ける明莉さんと羽菜さん。1台のピアノから二人が紡ぎ出す音楽は、これからも多くの人の心を打ち、温かい感動を与えてくれることでしょう。
全国大会での石橋明莉さん・櫻庭羽菜さんの演奏はこちら。