全日本ピアノコンクール

坂井奈津子さん

今年度、一般プロO56の部で最優秀賞に輝いたのは、坂井奈津子(さかいなつこ)さん。賛美歌を歌う園、オルガンのひびきに魅せられ、オルガンから始めた坂井さんですが、7歳の卒園と同時に近所のピアノの先生に師事し、ピアノを本格的に始めたそうです。生徒の演奏に触発され、自身もコンクールに挑戦した坂井さんが自分の体験から生徒の気持ちもわかるようになったという気づきは…

坂井奈津子さん

発表会での生徒の演奏に触発されコンクールに挑戦

坂井さんは、ピアノの講師として生徒に教えているレッスン歴53年のベテランのピアノ講師、奏者でもあります。4歳のころ、幼稚園の放課後の音楽教室でオルガンから習い、7歳の卒園と同時に近所のピアノの先生に師事しました。両親は音楽をやっていないけれど、ピアノを習わせてくれて、応援してくれていました。

自宅での発表会での生徒の演奏に触発され自身もコンクールに挑戦したという坂井さん。今の時代は、ピアノもモチベーションがないと上達できないので、モチベーションを上げるためにもコンクールへの参加を推奨しているとのこと。生徒にももっと先を見せてあげたいと言う思いと、自分もこの先どうなるかわからず、上を追求したいとの思いから挑戦することにしたといいます。

レッスン中の風景

最高位を受賞したときの気持ちは?

みなとみらいのホールでの演奏は、1曲目は失敗だったと坂井さんはいいます。2曲弾いたのですが、課題曲で自分のピアノの音が聞こえなかったのと、変な力が入ってしまって、ペダルを踏み外したり、音を外したりしてしまいました。2曲目の自由曲スクリャービンの幻想曲で力を出し切らなくてはと思い、集中して演奏したといいます。最高位を受賞したのはありがたいけれどここでは終われないと思っているそうです。

ていねいな講評をたくさんいただき、うれしかったといいます。印象に残っているコメントは、スクリャービンについての内容が多く、苦労して仕上げた甲斐がありました。審査員の方には難しいところを見抜いてくれて、そういう弾き方があるのだというコメントもあり、わかってくださる先生がいて感動しましたとうれしそうに語ります。

ふだんの練習では、生徒に教えるための月1回指導法のレッスン、ソロを弾くための先生のレッスンについています。昼の間に12時間、夜1時間、計3時間は毎日弾いているとのこと。楽器や音楽の好きなところは、演奏していても聞いていても、さまざまな感情が沸き起こり、心の声に近いと思うといいます。人間の感情はいろいろ混ざっていて、矛盾しているものが渦巻いていると坂井さんは語ります。

自由曲でスクリャービンを選んだ理由は、難しいけれど、自分にとっては弾きやすいところがあるから。曲が簡単という意味ではなく、曲を理解できる。うまく弾けないから頑張ろうと思える、曲自体の魅力があることです。40代くらいの頃、譜読み程度に勉強したこともあり、時間が経ってもう一回弾いてみたいと思ったそうです。

演奏中の写真

指導法の勉強もしていて、生徒もだんだんとコンクールやオーディションを受ける人が増えています。教えているけど、自分はできている?と言う疑問が頭をもたげ、できていないかもと不安になりました。

私が、しっかりひけているか、曲を理解していないと、子どもたちが見せてあげられない、伝えられないと思い、心に響かなければ生徒も納得しないと思い、だんだん自分の課題に気づかせてくれました。コンクールは、発表会とは次元が違う。内面に入っていかないと、緊張の場で表現負けてしまう。プロの方たちがじっくり聞いてくれるのでこちらに蓄えがないと理解してもらえない。表面的に取り繕うのではなく、精神的な成長をしないと美しい音色は出せないと思ったと坂井さんは語ります。

ファイナルの時に会場で演奏するコンクールがとても多く、本選では、一発勝負でベストな演奏をすることが必要です。今までは、出場する生徒に直前まで声をかけていた、自分が同じ立場となり、集中したい、人に会いたくない、1人でその場で集中させることの大切さを自分でやってみて、よくわかったそうです。

霞ヶ浦湖畔を毎朝愛犬と散歩しています

歩みを止めないことの大切さを伝えたい

坂井さんに将来の夢を伺いました。

「コンクールがすべてではないですが、そこまで高めていく過程には刺激があって楽しくて、一歩一歩前に進むことのできる環境がありがたいと思っています。これからもコンクールを受けて、生徒には先生もやっているよと伝えたいですね。部活や受験などで辞めちゃう子が多いけれど、いつでも戻ってこられるからね、充実したプライベートな空間で、子どもたちも思い出してくれると思います。ピアノを弾けることは幸せだと生徒達にも伝えたいです」。

コンクールへの参加で得られるもの

コンクールに参加することの魅力をお伺いしました。

「コンクールで体験することで自分が高められること。学生時代はコンクールで受賞できないことで悲観的になるけれど、今の立場ではそんなことはなくて、だれにも何にも言われないですよね。通らなかったから人生が逆転するわけではない、自分がココで止まってしまう怖さの方が強くて、チャレンジする気持ちを持ち続けていたい。コンクールが終わった後はすがすがしく、力を出し切ったいい経験だったと思える。チャレンジすることで視界が開けます。受章者のコンサートで、オペラシティで弾けるのも楽しみです」と輝かしい笑顔で答えてくれました。

 

全国大会での坂井奈津子さんの演奏はこちら