高校生の部で1位を受賞した小西凛音(りおん)さんは、兵庫県立西宮高等学校音楽科の2年生。毎日ピアノ漬けの生活を送る多忙な凛音さんの時間を少しだけ割いて、自宅のリビングからインタビューに答えてくれました。
小西凛音さん
凛音さんがピアノの鍵盤に初めて触れたのは、4歳の頃のことです。テレビCMを見て興味を持ったヤマハ音楽教室に通い始め、最初はエレクトーンからのスタート。その先生のすすめでピアノに転向し、以来ずっと鍵盤と共に歩んできました。小学5年生のとき、恩師・佐野まり子先生と出会い、音楽高校を目指すことを決意。佐野先生には現在も師事しています。
家族に音楽関係者がいるわけではなく、家族にすすめられたわけでもなく、すべて自分の意思で選んできた道。高校では、同じく音楽の道を志す仲間たちに囲まれ、お互い刺激を受けながら日々を過ごしています。
そんな凛音さんの生活は毎朝4時から始まります。登校前に自宅で2時間ほど練習。その後学校で授業を受け、放課後に学校で練習して帰宅した後も夜まで練習に取り組みます。
ですが、高校に入学してから一時期、「思ったように弾けない」と悩んだ時期もあったそう。以前は自宅でピアノを弾ける時間が限られていましたが、引っ越しをして今の環境では24時間好きな時に練習ができるようになったところ、思う存分ピアノに向き合えるようになり、いつしかスランプを抜け出しました。自由に弾ける今の環境へと変わったことで、徐々に演奏への没入感が高まっていったといいます。「たくさんコンクールに出て、場慣れしたことも大きかった」と話してくれました。
とても練習熱心で真面目な凛音さんですが、当の本人は「練習が特別好きというわけではないけど、他にやることがないんです」と笑いながら語ります。
高校1年時にはイタリアでマスタークラスを受講
現在は、エチュード3曲に加え、バッハ、ベートーヴェン、ラフマニノフ、ディティユー…と、さまざまな時代の曲に同時に取り組む凛音さん。特にF.リストの作品が好きで、今回のコンクールでも『BACHの名による幻想曲とフーガS.529』を選曲しました。この曲は、同じ門下の先輩が以前演奏していたのを聴いて、自分も弾いてみたいと強く思ったのがきっかけだったそうです。自由曲の選曲は自分で提案することが多く、逆にベートーヴェンなどの古典的な作品は先生に選んでもらうことが多いとのこと。「自分の課題に合った曲を先生が選んでくださるので、ありがたいです」と語ってくれました。
凛音さんの現在の課題は「歌うような表現」の克服だそう。速いパッセージや超絶技巧的な演奏は得意だけれど、旋律を歌うように奏でることに苦手意識があるといいます。その克服のために、学校の音楽史の授業を通して作曲家の背景を学び、作品に対する理解を深めています。例えば「この作曲家、こんなおもしろい人やったんや」と作曲家の人となりを知ることで、音の出し方やリズムの捉え方のヒントを得ることもあるそうです。
美術館で作品を鑑賞し、当時の情景や空気感に思いを馳せる時間が好き
今回のコンクールでは、審査員から「エネルギッシュで、自分の表現がしっかり伝わってきた」と高く評価されました。「本番ではミスもありましたが、自分の表現したいことが出せて、それが審査員の先生方にも伝わったことが嬉しかったです。それから、ホールに自分の音がよく響いていて、弾いていて気持ちよかったです」。一方で、会場のホールの響きに合わせたペダルの使い方についてのアドバイスもあり、今後への課題のひとつとして受け止めています。
結果発表は、放課後にお友達と確認したそうで、一緒に「やったー!」と大喜びしてくれて嬉しかったとのことです。
学校内では、他の楽器専攻の生徒の伴奏を担当する機会もあり、ソロ演奏とは異なるアンサンブルの難しさや楽しさにも触れています。「伴奏では相手の音をよく聴いて、弾き方を合わせるのが難しい。でも、自分では選ばないような作曲家の曲にも出会えるので勉強になります」と語るように、そこでも多くの学びを得ているようです。
本大会前の年末年始、青い空と海を眺めながらのんびりとリラックス
ピアノ一筋の凛音さんの息抜きは“推し活”。アイドルグループの乃木坂46やNumber_iの平野紫耀さんのライブに行くのが楽しみだそう。「家で歌ったりもしています」とのことで、やはり趣味の中にも音楽が根付いている様子。
また意外にも、学校の友達とは教室であまり音楽の話はしないとのこと。YouTuber平成フラミンゴの話題などで盛り上がるのだそうで、普通の女子高生の一面も垣間見えます。
2025年の今年、凛音さんは受験生。志望大学もほぼ決まってきているそうですが、夏にコンクールも控えており、これからますます忙しくなりそうです。今後の目標を尋ねると、「持ち曲をもっと増やしたいです」と答えてくれました。そのための一つの方法として、今まで取り組んだことのあるエチュードをウォーミングアップと復習を兼ねて日々の練習の始めに弾いているのだとか。それは、コンクールなどに取り組む際にも有利になる場合があるそうです。
将来の夢は、「細々とでも演奏を続けていけたら」と控えめに語りますが、その芯の強さは言葉の節々から伝わってきます。「演奏家として自分の表現を続けていきたい」、その目標に向けて、今日も早朝からピアノに向かう凛音さんなのでした。
受験を控え、ますます多忙な日々が続く中でも、着実に音楽の道へと進む凛音さん。今後、曲のレパートリーや表現の幅を広げ、ますます豊かな音楽家として成長していく姿を見るのが楽しみです。
※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※インタビューは2025年4月上旬に行いました。
全国大会での小西凛音さんの演奏はこちら。