ピアノの鍵盤に指を置くたびに、音に色をのせていく。そんな感覚で演奏しているというのは、小学3年生の吉田凛華さん。小学生中学年部門で金賞を受賞したその演奏には、年齢を超えた豊かな表現力と、丁寧に積み重ねてきた練習の成果が感じられました。
吉田凛華さん
ピアノを始めたのは3歳のとき。きっかけは、2歳年上のお兄さんがピアノを習っていたことでした。幼いながらもその音に惹かれ、「自分も弾きたい」と思ったそうです。当時の記憶はあまり残っていないそうですが、自然と音楽に引き寄せられるように、ピアノとの時間が始まったそうです。
普段の練習時間は、平日は1日1時間ほど、週末は2時間ほどですが、予定によって長くなることもあります。書道や塾など、他の習い事も多く、忙しい日々の中で時間をやりくりしながら練習に励んでいます。習い事のない平日の水曜日は、その時間を使って妹さんとままごとや折り紙をして遊ぶこともあるそうですが、やはりピアノに向かう時間が自然と多くなるとのことでした。
ピアノの先生は、最初から今も変わらず、紺屋なるみ先生に習っています。「優しい先生です」と、にこやかに話してくれました。今回のコンクールに向けたレッスンでは、「音の色を意識して」と言われたそう。クログルスキ『ショパン風マズルカ ホ短調』では、悲しい雰囲気の曲なので音の色もそう表現するようにアドバイスされたといいます。凛華さんに尋ねると「紫とか青の色を思い浮かべて弾きました」とのこと。一方、課題曲のJ.S.バッハ『インベンション 第13番 イ短調 BWV784』では転調したところからは「オレンジや黄色」を思い浮かべて弾いたそうで、音楽と色彩を結びつけて表現する感性に驚かされました。
みなとみらいで楽器の体験会に参加
今回のコンクールに出場したきっかけは、「神奈川県立音楽堂のホールで演奏してみたい」という思いからでした。なんと前月に開催されたホールの建築説明会にも参加したそうで、響き方の特徴などを事前に学んだうえで臨みました。説明会ではバイオリニストやピアニストの先生から、ホールの響きの特性について話を聞いたそうです。「響きすぎても難しい」という言葉が印象に残った様子。後日、学校の日記にはこんな風に綴っていたそうです。「自分は響かないホールより響くホールの方が好きなので、いつも音をホールの一番後ろまで響かせるように意識して弾きたい」その言葉通り、凛華さんは普段の練習からホールの空間に音が広がっていく様子を想像しながら演奏に取り組んでいます。
自由曲は、他のコンクールと重なる曲の中から選んだものですが、最終的には本人が選びました。「お兄ちゃんが弾いていた曲なんです」とのことで、ここにもお兄さんの影響が表れています。練習では、音楽の“山”を意識して、どこに向かって音を運ぶのか、どう盛り上げていくのかという点に重点を置いて取り組んできました。その成果は、審査員からの講評にも反映され、「音の方向性が明確である」と高く評価されました。
コンクールの2日前に行われた発表会での様子
結果が発表された際には、実は本人にはすぐには伝えられませんでした。2日後に別のコンクールを控えていたため、気持ちが浮かれて悲しい雰囲気の曲の表現に影響が出ないようにと、お母さまがあえて知らせずにいたのだそうです。ところが、お父さまがつい嬉しさを抑えきれずに、こっそり凛華さんに伝えてしまったという微笑ましい一幕もありました。
練習について「大変?」と尋ねると、「とっても大変」と即答する凛華さん。しかし、お母さまは「音楽的な苦しみとか、もうこんなに練習するならやめたいとかそういうような、大きな苦しみではなくって。『テレビ見たい』とか『おやつ休憩したい』とか、そういう大変さなんです」と補足します。それでも「ピアノをやめたい」と思ったことはないそう。
現在は、バッハのインベンションやショパン、邦人作曲家の作品など、様々な時代の複数の曲に取り組んでいます。妹との連弾にも挑戦しており、2025年夏には姉妹連弾でコンクールにも挑戦する予定。それ以外にも、年間を通して複数のコンクール出場を予定しています。
将来の夢はまだはっきりとは決まっていないとのことですが、直近の目標はモーツァルトの「トルコ行進曲」を弾けるようになることだそう。小柄な体格でオクターブを弾く時の指が届かないことから、弾ける曲に制限があるのだとか。「いつかショパンのスケルツォやバラードを弾いてみたい」とcdを聴きながら夢見ています。
YouTuberでありピアニストでもあるかてぃんさんのピアノを弾きに
音楽以外にも、バレンタインには動物型のチョコレートを作るなど、お菓子作りにも興味があるようです。パティシエに憧れる気持ちもあり、ピアノと並行して様々なことに関心を持っていることが伝わってきました。
また、凛華さんを支えてくれているのは、家族と先生の存在です。普段は自宅のアップライトピアノで練習しているため、コンクール当日の朝には、先生の自宅にあるグランドピアノで最終調整させてもらうこともあるそう。こうした温かなサポートが、日々の努力を支えてくれているのでしょう。
インタビューの最後、「これからもコンクールで賞が取れるように頑張りたい!」と笑顔で話してくれた凛華さん。楽しく続けながら、表現力を磨いていくその姿に、これからもたくさんの舞台で輝いてほしいと心から思いました。
※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※インタビューは2025年3月下旬に行いました。
全国大会での吉田凛華さんの演奏はこちら。