小学生低学年の部、最優秀賞は小学2年生の井上慎太郎さん。2023年のコンクールでは2位という結果に親子で悔し涙を流し、今回は見事リベンジを果たしました。週に3〜4回レッスンに通うという濃密な日々を過ごす慎太郎さんと、お母さまにお話をうかがいました。
井上慎太郎さん
慎太郎さんがピアノに触れたのは6歳の時。それは、ご両親が「情操教育に良いのでは」と考え、アップライトピアノをレンタルして自宅に置いたことがきっかけでした。「特に『弾いてみよう』と声をかけたわけではないんです。ただ置いてみただけなのですが、意外と自分からピアノに触って、自分で音を出して遊んでいるのを見て、『これだけ興味があるなら、一度レッスンに連れて行ってみようか』と夫婦で話しました」とお母さまは当時を振り返ります。ピアノが家に来てから約半年後、体験レッスンを経て、慎太郎さんのピアノ人生は本格的にスタートしました。一般的な音楽教育家庭と比べると、6歳というスタートはやや遅めかもしれません。しかし、慎太郎さんの音楽への興味と才能は、すぐに開花し始めます。
ピアノを演奏する慎太郎さん
現在、慎太郎さんは二人の先生に師事しています。「一方の先生は週に2〜3回、もう一方の先生は週1回レッスンを受けています。夫婦ともに音楽には詳しくないので、専門的な指導は先生方にお任せするのが一番確実だと思ったことと、本人の覚えが早く、課題をすぐに終えてしまうので、少しペースを上げてレッスンを受けたいという本人の希望でした」。レッスン頻度の高さと、それを慎太郎さんが自ら望んだということに驚かされます。
レッスンの内容は、先生ごとに特色があります。興味深いのは、二人の先生の間で直接的な連携はないものの、慎太郎さんの中で指導内容がうまく融合されている点です。異なる視点を持つ二人の先生に見てもらうことで、より多角的で深い学びを得ているのでしょう。
自宅での練習については、意外にも「練習熱心な方ではないかもしれない」とお母さま。「練習しなさい』と言うことはほとんどないのだそう。短い練習時間でも課題をこなせるのは、慎太郎さんの集中力の高さと記憶力の良さにあるようです。
海外に住む小学5年生のお姉さんのところに遊びに行った時
この自立した学習姿勢は、ピアノに限ったことではありません。お母さまは、3人のお子さんを育てる中で、「自分のことは自分でする」という方針を基本としつつも、慎太郎さん自身の自立心がもともと強かったと感じています。「年中の頃には『自分一人で買い物に行きたい』と言い出すような子でした。旅行の準備なども、今はもう全部自分でやっています。もちろん助言はしますが、最終的に決めるのは本人。私たち親が手をかけすぎなかったことと、本人の資質、両方があるのかもしれません」。慎太郎さんは、幼い頃から自分の意志を持ち、物事を主体的に進める力を持っていたようです。
また、慎太郎さんの音楽への興味はとても明確で、「クラシックが好き」とはっきり語ります。アニメやポップスの音楽にはほとんど興味がなく、ショパンやバッハなどの正統派クラシックに心惹かれるそうです。
「美しいものが好き」だという感性は音楽以外にも表れていて、街並みや宝石、ジュエリーなどにも魅力を感じているそうです。先日フランスを家族で旅行した際も、美しい景色に強く感化されていたといいます。
読書も大好きで、最近はギリシャ神話や『レ・ミゼラブル』など、年齢からは想像もつかないような古典的な作品を好んで読んでいます。音楽漫画『青のオーケストラ』や偉人の伝記も愛読しており、中でも作曲家に関する伝記はほとんど読み尽くしてしまったそうです。
今回のコンクールでの優勝は、実は「リベンジ」の意味も込められていました。前年の全国大会では2位に終わり、本人も悔しい思いをしたそうです。その経験を乗り越えての今回の結果。
審査員からの講評には、「これからも美しいものをたくさん見て、音楽に生かしてください」といったメッセージが記されており、慎太郎さんの音楽に対する姿勢が伝わった証でもありました。
海外に行った時は必ずストリートピアノを弾くようにしている
ピアノの魅力は、「色々な音を出して表現できるところ」だと言う慎太郎さんの将来の夢は、「世界的に活躍するピアニスト」。その第一歩として、「いろんな場所で演奏して、少しでも聴く人の印象に残る演奏がしたい」と語ってくれました。そして、今頑張っていることは「みんなを楽しませる演奏」。演奏することの楽しさを自分の中で育みながら、それを聴く人にも届けたいという気持ちが強く伝わってきます。
好きな作曲家はJ.S.バッハとのことですが、理由を尋ねると、「バッハの楽譜(直筆符)って強弱が書かれてないから、自分でいろんな強弱をつけられるところが好きなんです」だそう。想像力を働かせ、自分だけの音楽を創り出すという姿勢が、慎太郎さんの演奏の中にしっかりと息づいているのです。
音楽だけでなく、感性や思考の深さ、自立した学びの姿勢など、さまざまな面で印象に残る慎太郎さん。その奏でる音が、これからどのように世界へと広がっていくのか、未来がとても楽しみです。
※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※インタビューは2025年3月下旬に行いました。
全国大会での井上慎太郎さんの演奏はこちら。