中学生の部、最優秀賞は木本友稀さん。全国トップクラスの進学校として知られる開成中学に通う中学2年生でありながら、学業でも学年1位という輝かしい成績を収めるなど、多方面でその才能を発揮しています。中学3年生になるのを控えた春休み中のある日、お母さまと一緒にインタビューに応じてくれました。
木本友稀さん
友稀さんがピアノを始めたのは幼い頃、音楽好きであるお母さまの「我が子には音楽の道に進んでほしい」という願いがきっかけでした。クラシックに限らず、シンガーソングライターなど、音楽に携わる人生を歩んでほしいという思いから、友稀さんを音楽教室に通わせ始めたそうです。小さなうちからグランドピアノで練習できる恵まれた環境のもと、自然と音楽と向き合う日々が始まりました。
友稀さんはピアノ以外にも、ギター、書道、そろばん、英語、サッカー、水泳、テニスなど、さまざまな習い事を経験してきました。友稀さんが自らが興味をもち「やってみたい!」と言ったことは、とりあえず全てやらせてみたとのこと。その中で中学生になる現在も続けられている習い事はピアノだけ。「落ち着いてじっくりと取り組むことが性に合っていた」と話します。小学4年生からは中学受験のための勉強に力を入れたものの、ピアノのレッスンは一度も中断せず続けてきました。
長年お世話になっている川島香奈子先生と
現在のピアノの先生は、幼い頃から音楽教室でお世話になっている川島香奈子先生です。とても生徒思いで明るく優しい先生のお陰で、今まで楽しくピアノを続けられてきました。さらに1年前からは、バッハやツェルニーといった友稀さんが「苦手」という基礎の強化を目的に、杉本宏江先生にも師事しています。以前は苦手意識のあったバッハですが、杉本先生の分かりやすい指導のおかげで、今では「楽しい」と感じられるようになったといいます。「基礎を見直したい」と自分から提案し、新しいレッスンに取り組む決断をしたことも、友稀さんの成長を感じさせるエピソードです。
また、開成の先輩で「開成ピアノの会」創設者である嘉屋翔太先生には、コンクール前にたくさんアドバイスをもらったそう。現役の男性ピアニストということもあり、師事している先生方とはまた違った視点で学ぶことが多くありました。
今回のコンクールでは、ブラームス『6つの小品 Op.118 第3番 バラード』とJ.S.バッハ『シンフォニア 第12番 イ長調 BWV798』を選曲。バッハでは、譜読みの段階から音符の長さや強弱などを丁寧に意識し、演奏全体の安定感を追求しました。審査員の先生からは「完成度が高く、理想の音楽」と高く評価され、自信につながったそうです。「テンポとリズムがよく、クリアで生き生きとした演奏だった」「和声の変化をよく感じ取って弾けていた」といったコメントも寄せられ、特にバッハについては、苦手だったとは思えないほどの称賛が集まりました。
一方、ブラームスは「自分に合っていると感じる曲で、楽しく弾けた」と語ります。和音のバランスや場面ごとのイメージの切り替えなどに苦労したものの、自分らしい表現ができたことが評価され、「曲の良さをよく引き出せていた」「説得力のある見事な演奏」という好評を得ました。
厳しいアドバイスもあったとのことですが、改善に取り組んだ結果、先日出場した別のコンクールでも同じ曲で優秀賞を受賞したそうです。
自宅にて、黒板を使った授業形式の学習
学業面でも大きな成果を上げており、修了式では学年で1位ともいえる『片山賞』を受賞しました。これは学業、人物などすべてを総合して最も優秀な生徒に贈られる賞で、ピアノと勉強の両方で結果を出していることに、周囲からも賞賛の声が上がったようです。
小学生の時に、より高いレベルの学びを求めて、私立中学受験を自ら志願した友稀さん。
5、6年生になっても受験勉強に励むかたわらピアノのレッスンも細々と続けていましたが、中学に入学して再びコンクールにチャレンジしたいという意欲が出てきたそう。「目標を作ることで練習も頑張ることができます。学校での定期試験のような感覚で、審査員の先生方に自分の演奏を評価していただき講評をいただくことで、今後学ぶべきことがたくさん見つかると思い、コンクールに出場しています。」
自宅でのピアノ練習風景
普段の練習時間は平均して30分程度。短い日には15分ほどで終えることもありますが、毎日必ずピアノに触れるように心がけているそうです。「ただ漫然と通して弾くのではなく、少しでも丁寧に」「気分が乗らない日は短い時間でも、とにかく鍵盤に向かう」と、緩急をつけた練習を大切にしています。学校では「開成ピアノの会」という部活動に所属し、年に2回の演奏会にも出演しています。
勉強は、空いた時間を使って自ら進んで取り組む姿勢が印象的です。お母さまも「気づいたら勉強していることが多いですね。私がゲームをしていても、隣で勉強しているんです」と微笑ましいエピソードを話してくださいました。
今後については、「クラシックだけでなく、ジャズや歌、ギターなどにも挑戦して、いろんな音楽を作ってみたい」と語ってくれました。作曲にも興味があり、まだ始めてはいないものの、「音楽を作って表現したい」という気持ちがふくらんでいるようです。
将来の夢はまだ決まっていないものの、「音楽は続けたい」と強く語る友稀さん。「勉強の道を選んでも、音楽をあきらめる必要はないと思っています」と話してくださいました。
「これまで特別に苦しいと思ったことはありません」と語るその姿勢からは、日々を前向きに、自然体で過ごしている様子が伝わってきます。お母さまの「小さい頃から習慣づけを意識して育ててきた」という言葉にもあるように、幼い頃からの積み重ねが、今の友稀さんを形づくっているのでしょう。
コツコツと地道な努力を当たり前のように重ね、音楽と学業の両方に誠実に向き合う友稀さん。今後どの道に進まれても、その純粋な好奇心と真摯な姿勢は変わることなく、きっと豊かな音を奏で続けてくれると期待しています。
※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※インタビューは2025年3月下旬に行いました。
全国大会での木本友稀さんの演奏はこちら。