「クラシック音楽の作曲家って、一体何人いるんだろう?」そう思ったことはありませんか? 実際何人いるんでしょう、わたしは家にあった作曲家辞典をめくりながら数えてみました。1、2、3、4、5……50人くらいまで数えたところでやめてしまいました。まったくキリがないのです。それだけたくさんの作曲家が何百年もの間に現れて、たくさんの作品を作ってきました。そうやってクラシック音楽の広い広い世界ができていったのです。
クラシック音楽の世界は、広くて深い海みたいなところです。浅い場所や深い海の底、キラキラと光る場所やちょっとにごった場所、真っ青に輝いていたり夕日に照らされていたり…。そんなふうにクラシック音楽は一言では言えないくらい、いろいろな色を見せてくれます。どの作品も違った美しさを持つのです。今日は、そんなすてきなクラシック音楽の海の中を探検するのがもっと楽しくなるように、小学生のみなさんに知っておいてもらいたい10人の作曲家を紹介したいと思います。
①J. S. バッハ | ②モーツァルト | ③ベートーヴェン | ④シューベルト | ⑤ショパン |
⑥シューマン | ⑦リスト | ⑧ブラームス | ⑨ドビュッシー | ⑩ラヴェル |
どうでしょう、何人知っていたでしょうか? ひょっとしたら、音楽の教科書で見たことがあったり、その作曲家の曲を何か聴いたことがあったりしたかもしれません。ピアノを弾いている子だったら、「この作曲家の曲をもう弾いたことがあるよ!」という子もいるかもしれませんね。ここからは、そんな10人の作曲家たちがいつ・どこで生きていたのか、いっしょに見ていきましょう。
時代と国
作曲家が生まれた年 | その時代/人物/出来事 | |
1603 徳川家康が江戸幕府を開く 江戸時代の始まり | ||
1685 | バロック | J. S. バッハ |
1700年頃 現在のピアノの原型が発明される | ||
1756 | 古典派 | モーツァルト |
↓ | ||
1770 | ↓ | ベートーヴェン |
1776 アメリカ独立宣言 | ||
1789 フランス革命 | ||
1797 | ロマン派 | シューベルト |
1804 ナポレオンがフランス皇帝になる | ||
1810 | ↓ | ショパン |
↓ | シューマン | |
↓ | ||
1811 | ↓ | リスト |
1830 ポーランド独立運動 | ||
1833 | ↓ | ブラームス |
1859 ダーウィンが進化論を発表 | ||
1862 | 近代 | ドビュッシー |
1868 明治時代の始まり | ||
1875 | ↓ | ラヴェル |
さっき挙げた10人の作曲家に①から⑩の番号をつけていましたが、あれは実は生まれた順番に並べていたのです。上の表を見てみると、おもしろいことが分かります。この10人の中のほとんどの作曲家が、日本がちょうど江戸時代の頃にヨーロッパで活躍していたのです。侍たちがちょんまげを結って、徳川家が日本を治めていたときに、海の向こうのヨーロッパではこれらの有名な作曲家たちがたくさんの曲を作っていたわけです。なんだか不思議な感じがしますね。
そうそう、バッハになんでJ. S.がついているんだろう?と思ったかもしれませんね。バッハの本名は「ヨハン・ゼバスティアン・バッハ」と言います。そのアルファベットの頭文字をとって「J. S. バッハ」です。「バッハ」というのは苗字なのです。そして、彼の家族や親せきはみんな音楽家でした。音楽家のバッハさんがいっぱいいてまぎらわしいので、「J. S. バッハ」と呼ぶことが多いのです。でも毎回毎回「J. S. バッハ」と書くのは大変なので、このあとはこの「J. S. バッハ」をバッハと呼んでいくことにしますね。
バロックや古典派、ロマン派ってなんだろう?と思った人もいると思います。これは、簡単に言うと時代ごとの音楽につけられたラベルのようなものです。作曲家は、時代によってまったく違う方法でクラシック音楽を書いていました。例えばバッハとモーツァルトとショパンの曲を聴き比べてみたら、雰囲気が違うことが分かるでしょう。バッハの音楽はカッチリしているな、モーツァルトは軽やかでなんだかかわいいな、ショパンはすごくロマンティックだな……そんなふうに思うかもしれません。それが音楽のスタイルの違いです。時代によって、聴く人が欲しがる音楽も、作曲家が書きたいと思う音楽もどんどん変わっていきました。時代によってぜんぜん音楽が違うので、それぞれに名前がついているのです。
活躍した国
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ドイツ | オーストリア |
フランス
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(どちらもドイツ語を話す国なので、まとめてドイツ語圏とも言います) | |||
作曲家 | J. S. バッハ シューマン ブラームス |
モーツァルト ベートーヴェン (生まれはドイツ) シューベルト |
ショパン リスト ドビュッシー ラヴェル |
この10人の作曲家は、大きく分けてドイツやオーストリアというドイツ語圏(ドイツ語を話す国)で活躍していた人と、フランスで活躍した人に分けられます。ショパンはポーランドで、リストはハンガリーで生まれましたが、活躍していたのはフランスのパリでした。ヨーロッパには他にもいろいろな国があるのに、どうしてこれらの場所に有名な作曲家が集まっているのでしょうか? それは、ウィーンやパリが「音楽の都」としてにぎわっていたからです。ウィーンやパリなどの大きな都市にはたくさんの人々が住んでいたので、それだけ音楽が好きで聴きたい人がたくさんいました。つまり、作曲家が作った曲を欲しい!と言ってくれる人がたくさんいたのです。そうして、音楽で有名になりたい作曲家が次々とこれらの都市に集まってきて、どんどん音楽が盛んになっていったのです。だから、ドイツやオーストリア、フランスに有名な作曲家がたくさんいるわけです。
どうしてこの10人が大事なんだろう?
今回は、小学生のみなさんに知ってもらいたい作曲家を10人選びました。でもどうしてこの10人が大事なんでしょうか? それは、この10人はすばらしい音楽を書いたとても有名な作曲家で、みなさんがこれから音楽を聴いたりピアノを弾いたりする中で必ず出会う人たちだからです。つまり、クラシック音楽の歴史の中でひときわ輝いているすごい人たちだからです。
何十年何百年も昔に生きたこの10人が作った音楽が今も残っているのは、実は本当にすごいことです。クラシック音楽は楽譜に書かれただけでは完成しません。みんなが聴きたい、弾きたい!と思わないとクラシック音楽は残らないのです。バッハやモーツァルト、ベートーヴェンたちの曲が今でも残っているのは、これまで誰も彼らの音楽を忘れなかったからです。この10人の作曲家たちは才能にあふれていて、みんなの心に残るすばらしい音楽を作り出しました。だから、彼らはこんなにも有名になったのです。
この10人の作曲家の音楽を知ることは、色とりどりの音楽の宝物を手に入れるのといっしょです。また、彼らはとても大きな存在なので、クラシック音楽の歴史をたどる道しるべになります。彼らはすてきな曲をたくさんわたしたちに残してくれました。それらの曲を知って、この作曲家たちと仲良くなれば、クラシック音楽を聴いたり弾いたりするのがもっともっと楽しくなるでしょう。
バイエル、ブルグミュラー、ツェルニー
ここまで読んでみて、あれっと思った子もいるんじゃないかと思います。わたしが、ぼくがたくさん弾いてきたバイエルやブルグミュラーやツェルニーはどうして出てこないんだろう? 確かに、彼らはたくさんの練習曲を書きました。小さい頃からピアノを習っている子は必ずと言っていいほど弾いているでしょう。でも、バイエルやブルグミュラーやツェルニーは、バッハやモーツァルトやショパンほど有名になることはできませんでした。なぜなら、バイエルたちの曲はピアノの練習で使われることが多くて、大きなコンサートなどで弾かれることがほとんどなかったからです。だから、例えばバイエルさんの曲が大好き!と言ってくれるようなファンがなかなか増えませんでした。
だからと言って、この作曲家たちが重要じゃないというわけではありません。例えば、ツェルニーはベートーヴェンの弟子で、リストの先生でもありました。みなさんのピアノの先生をちょっと思い浮かべてみてください。もしも自分の先生がベートーヴェンだったら、自分の先生がリストにピアノを教えていたら……それってすごいことだと思いませんか? ツェルニーはピアノの先生として活躍して、たくさんの練習曲を書いて、今のピアノ教育のもとを作ったすごい人だったのです。
このように人気者になることはできなかったけれど、大切な仕事をした作曲家たちもクラシック音楽の歴史の中にはたくさんいました。みなさんが彼らのことをおぼえておいてあげるのも、とても大事なことなんですよ。
最後に
今回お話しした10人の作曲家は、クラシック音楽の作曲家のほんの一部です。クラシック音楽の歴史の中には、才能があって魅力的な作曲家が数えきれないほどたくさんいます。どの作曲家の曲から聴けばいいのか、弾けばいいのか迷うことがあるかもしれません。そんなとき、今日紹介した10人の作曲家を思い出してみてください。彼らは、きっとみなさんがクラシック音楽の世界を旅するときの案内人になってくれるでしょう。
小野寺 彩音
小野寺 彩音 (おのでら あやね)
岩手県出身。
東京藝術大学音楽学部楽理科4年に在学中。
来年度からは同大学大学院音楽研究科音楽文化学専攻音楽学研究分野に進学予定。
オペラについての研究を行うと共に、オペラ演出を学ぶ。
5歳からピアノを始め、現在はピアノソロ作品に加え、オペラ・アリアや歌曲、
ミュージカル作品など幅広い年代の声楽作品の伴奏の研鑽を積んでいる。