全日本ピアノコンクール

北村真紀子さん 前田陽一朗さん

連弾部門O31の部で最優秀賞に輝いたのは、北村真紀子さんと前田陽一朗さん。もともと桐朋学園大学院大学(修士課程)時代の同期というふたり。地区大会から全国大会まで、ストラヴィンスキーの難曲でエントリーしました。5年ほど前からコンサートなどで演奏するようになり、今回、デュオとして初めて出場したコンクールで、初めての受賞でした。

北村真紀子さん・前田陽一朗さん

「当日、スタッフの皆さんから、楽しんで聴いたと声をかけていただき、それだけでも嬉しかったのですが、こうして結果にもつながったのは、また嬉しいことです」と前田さん。北村さんも「学生時代とは違う緊張感があり、身が引き締まる思いです」と結果を受け止めます。

ふたりの出会いは、大学院入学式の日。北村さんが練習室でひとりピアノを弾いていると、突然人が入ってきて「連弾をやってみたいのだけど、これ弾いてくれない?」と声をかけられたと言います。声の主は前田さんで、見せられた楽譜が今回の全国大会で演奏した『春の祭典』でした。「初見で弾けるわけがなく、あたふたした」という北村さんに、「いつかこの曲を人前で弾きたいから、またやろう」と前田さんは言いました。そして、「ところで君、なんて名前? と尋ねられたことをよく覚えています(笑)。あれから長い年月を経て、ほんとうに人前で弾くことができるとは、当時のわたしは夢にも思わなかったと思います」と北村さんは振り返ります。

大学院の所在地は富山県のため、一学年10人程度の少人数で寮生活を共にしていました。北村さんと前田さんも、学生時代は毎日一緒に勉強した気のおけない友人同士です。5年ほど前からはデュオとして活動し、コンサートなどで演奏するようになりました。
とはいえ、現在ふたりが住むのは神奈川県と東京都、すぐに会える距離ではありません。そのため実際に会ってふたりで合わせて練習する時間は、とても貴重です。普段は、北村さんが5歳の子を幼稚園に送り届けたあとの午前中に、オンラインをつなぎ、時間を確保しています。指揮者としても活躍している前田さんが合わせのポイントをアドバイスしたり、ふたりで音楽のつくりかたを話し合ったりしています。「オンラインとオフライン、練習にメリハリをつけています」と前田さんは言います。

そんな中チャレンジした、全日本ピアノコンクール。昨年、あるステージの本番に向けて頑張ったストラヴィンスキーの『春の祭典』でエントリーすることにしました。ふたりの出会いのきっかけとなった曲です。地区大会は動画提出でのエントリーでしたが、「大人になると、なかなかレッスンを受ける機会がないので、審査員の先生方の客観的なアドバイスをいただきたいと思い、応募しました」と北村さん。「あとは、練習やリハーサルのときに録りためていた練習用の音源を、人前に出してみたくなって。ちょっとした承認欲求です(笑)」。

全日本ピアノコンクールの連弾部門は、それぞれの大会で同曲エントリーが可能です。ブロック大会も通過したふたりは、地区大会で動画提出した『春の祭典』を、全国大会のステージで再び演奏することにしました。「この曲はとにかく難曲なので、まずは音をつけずに、ずっとリズム打ちをやっていました。前田くんとのオンラインの朝練で、ただただリズムを体にたたき込んでいたのが、いま振り返ってみると大変だったなと思います」と北村さんは言います。全国大会では、時間制限の関係で最後まで弾くことが叶いませんでしたが、「ふたりで一つの音楽をつくる喜びを感じる素敵なデュオ」「最後まで聴きたかった」と審査員から高評価を受けました。

前田さんは「ひとりでいろんな音楽が弾けることが、ピアノの魅力」と語ります。その上で、「連弾はアンサンブルの一つですが、ほかのアンサンブルと比べて不便なところが多い。動きが制約され、体の使いかたもうまくいきません。何より、ピアノの音しかないということも、大きなハンデです。しかしそれを克服して、さまざまな音が使えるようになったとき、ピアノの良さが引き出され最高の喜びになります。それに、相手がすぐ近くにいて密になって弾くことも、競技的な熱さが感じられることも、連弾の面白いところです」。そうした魅力を感じているからこそ、「縦を合わせるのが苦手なので、取り組みたい」と課題は尽きません。北村さんも「今回、アンサンブルの奥深さはもちろんですが、オーケストラの楽器とおなじ音をピアノで弾くことの難しさを学びました。さらにこれから、どこまでピアノでオケの音色に近づくことができるか挑戦したいし、楽しみでもあります」。

ふたりで一つの音楽をつくりあげる

いまは子育てをしながら、できる範囲で取り組む北村さんと、演奏家として指揮者として、音楽のプロとして活動している前田さん。今後について、北村さんは「いままでも好き勝手にピアノを続けてきたので、これからも、細々とでも、どんな形ででも、ピアノを弾いていきたい」。前田さんは「(まずは)70歳まで現役」。これからも、それぞれのスタイル、それぞれのペースで、ピアノに向き合っていきます。

 

アンケートによるインタビューだったため、お会いすることはできませんでしたが、友人同士であるおふたりの関係の良さが伝わってきました。出会いのエピソードも、とても印象的ですね。
年齢を重ねれば重ねただけ何かに夢中になることを忘れがちですが、経験を重ねて得た余裕を感じさせながらも、学生時代の熱を失わずにいられるのは、羨ましくもあります。またどこかで、おふたりの演奏を聴かせていただきたいです。

※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※アンケートインタビューは2月上旬に行いました。

全国大会での北村真紀子さん、前田陽一朗さんの演奏はこちら