全日本ピアノコンクール

宮本真璃さん

大学生・院生の部1位は、東京音楽大学2年生の宮本真璃さんです。賞は意識せずに臨んだ全日本ピアノコンクール。思いがけない結果で、とても驚いたと言います。大学の学年末試験が終了した春休み。島根県のご実家への帰省中に、インタビューにこたえてくれました。

 宮本真璃さん

全国大会の会場となったみなとみらいホールは、真璃さんが、ずっと弾いてみたいと思っていたホールでした。「賞は意識していなくて。豊かな美しい音を響かせること、その響きをよく聴いて楽しんで弾くことを、当日の目標にしていました」と真璃さん。もともと本番で緊張するタイプ。実際に舞台に立つことができてとても嬉しかった反面、1曲目は特に体に力が入ってしまい、普段どおりの演奏ができませんでした。2曲目のスクリャービンを弾きはじめると、自分でもびっくりするくらい気持ちが落ち着いてきましたが、うまくいかなかったところもあり満足できる演奏ではなかったと言います。当日は、地元でご両親がライブ配信を観てくれていて、演奏終了後すぐに「頑張ったね」とメッセージをくれましたが、真璃さん自身は「もっと努力しなくては」と反省していました。
そうしたなか届いた、第一位の結果。真璃さんにとっては、コンクールでの初めての最高位でした。「いつも熱心に厳しく指導してくださる先生方にとても感謝していますし、これから、審査員の先生方からご指摘いただいたことを勉強して、さらに高めていきたい」と話します。

全日本ピアノコンクールは、演奏の制限時間が比較的長めに設定されています。そのことは、エントリーへの後押しとなりました。時間をオーバーしてベルが鳴ってしまっても、採点に影響しないということも心強かったと言います。取り組んでいる曲をできるだけ最後まで演奏したい、そんな思いで、コンクールに向けて練習しました。そして、地区大会から通して会場審査を選択したのは、人前で演奏するときに緊張してうまくいかないことから目を背けず、克服すべきことだと考えていたからです。

ピアノ教室の発表会 中学生のとき

真璃さんが個人の先生に付いてピアノを習いはじめたのは、小学生になってから。それまでは、音楽教室に通っていました。一方、小学校では合唱部、中学校では吹奏楽部に所属し、フルートとピッコロを担当。ピアノとの両立は大変でしたが、部長としても頑張りました。こうして、真璃さんは音楽に親しんできました。

吹奏楽部のステージで

真璃さんの地元には、音楽科のある高校はありません。そのため普通科に進学しましたが、「高校生のときが、いちばん辛かったかな」と振り返ります。数学や化学、歴史などの授業やテストで一日が終わり、帰宅後は予習復習に追われる毎日。「いつでも頭のなかにはピアノがいちばんにあったのですが、勉強も怠れないので……とても苦しかったです」。疲れきってしまい、ピアノに向き合う時間があまり取れないこともありました。さらに、コロナ禍で対面レッスンも困難に。それでも、「先生方に支えていただき、音大に進むことができました。充実した環境で、音楽の勉強を続けられました」。大学入学と同時に上京すると、切磋琢磨できる友人たちに出会い、淋しさを感じることもありませんでした。有意義な毎日です。「あのとき、どんなことにも諦めずに努力してよかったと、いまでは心から思えます。地元からこころよく送り出し、応援し続けてくれている家族にも、感謝しています」。

現在は、週に一度ずつ2人の先生からレッスンを受けています。「特に、一音一音の響きを自分でよく聴いて、響きを大切にするようにと指導していただいています。耳や感性を研ぎ澄ますように努力する日々です」。授業が多い日は、練習時間の確保が難しいこともありますが、授業の前後や合間など、空き時間を見つけては、大学の練習室で練習しています。
大学に入学したばかりの昨年度は、ショパン国際ピアノコンクール in ASIA に挑戦。演奏したのは、ショパンの『ピアノソナタ第2番』です。先生から「演奏がまじめすぎる」と言われることもある真璃さんですが、この曲と出会ったことが、自分を変えるきっかけとなりました。ルバートを意識したり、和声の響きを感じたり、作曲された背景を物語にして考えたりすることで、感情や思いを込めて、歌って演奏することができるようになったと言います。真璃さんにとって、ショパンは好きな作曲家の一人となりました。

このように、すばらしいピアノ曲に出会えることは、真璃さんの喜びです。「わたしはソロで弾くことが多いですが、ピアノデュオや室内楽、伴奏者として活躍できるところも、ピアノの魅力。それに、タッチによってさまざまな表情をつけることができ、演奏家によって違う工夫が見られるところも楽しい。そうした違いを感じとって勉強することも、わたしは好きです」。

新しい曲との出会いは真璃さんの喜び

大学生活はあと2年。卒業後の進路をそろそろ考える時期ですが、まだはっきりとは決めていません。ピアニストへの憧れはありますが、演奏家として生活することは、現実的に考えてとても厳しいと感じています。でも、「音楽には、人を勇気づけたり励ましたりする力があります。だから、音楽に関わる職業にはつきたい」。大学では教職課程の授業も受講しています。「わたしと同じように、音楽の道に進みたいと考えている人がいたら、助けられるようになりたい」、そんな未来も描いています。
これからも音楽に関わり続けるために、まずは今を精一杯頑張る。それが、これまで支えてくれた人たちへの恩返しです。

 

インタビューにむけてのやりとりや実際にお話するときの様子など、とても真摯に向き合ってくれた真璃さん。こちらの気持ちも引き締まりました。何ごとにもまっすぐにいることは、なかなかできることではありません。そうして精一杯頑張った先にある未来は、きっと明るいはずです。

※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※インタビューは3月上旬に行いました。

全国大会での宮本真璃さんの演奏はこちら