全日本ピアノコンクール

堤智哉さん

小学生高学年部門で最優秀賞に輝いたのは、箕面市立西南小学校6年の堤智哉(つつみともや)さん。全日本ピアノコンクールのことはネットで知りましたが、自由曲が弾けることや地区大会の会場が各地に設けられていたことが、エントリーの決め手になったと言います。普段は智哉さんの指導にあたるお母様も一緒にインタビューに答えてくれました。

堤智哉さん

「全国大会は、はりきりすぎて目立つミスをしてしまって……。上手な人もたくさんいたから、結構ヘコんでいました(笑)」と智哉さん。「帰りにコンクールの看板の前で写真を撮ったのですが、顔がしょんぼりしていて」とお母さんも笑って振り返ります。結果発表の日は体調を崩して学校を休んでいた智哉さんですが、「一番上に自分の名前があるのを見た瞬間、すっかり元気になりました。まさか位とは思っていなかったので、めっちゃびっくりして嬉しかったです」と笑顔が弾けます。これまでも数々のコンクールで入賞していますが、「こんなにずっしりとした立派なトロフィーは初めて」と、ピアノのそばに飾っています。

全国大会のステージでは堂々とした様子を見せた智哉さん。舞台袖までは緊張するものの、いざステージに立つと「弾ききろう」という気持ちが勝って演奏できると言います。お母さんは「欲がないのかもしれません。生まれてか月のころから読み聞かせをはじめて、いままでたくさんの本に触れてきました。いまも放っておいたらずっと本を読んでいるほど、本を読むことが好き。学校から帰って手を洗うよりも先に本をとったり、着替えながら立ったままページをめくったり、歯磨きしながら片手で読んだり。まず本を読むことが生活の中心にあって、そのなかにピアノがある。ピアノに対して気負いがないから、逆に、ステージで集中できることもあるのかもしれませんね」

学校で借りたりしながら、月に80冊ほど読むこともあります。「文字の多い作品が好き。J.K.ローリングとかペニー ワーナーとか、ミステリーやファンタジーの海外作品をよく読みます」。でもお母さんは、読書だけにならないよう外へ出かけたり、リトミックや体操教室などで身体を動かしたり、いろいろなものを見たり触れたりすることも意識してきました。こうした経験から培われた集中力や想像力は、「ピアノを奏でる上でのイメージづくりや、ピアノを楽しむことそのものにもつながったかな」と話します。

学校で一週間に12冊、図書館で月に40冊借りるほど本が大好き

指導者でもある母の里砂さんは、音大を卒業後、音楽教室で講師をしたりレストランなどで演奏活動を続けたりしていました。智哉さんが生まれて、だんだん大きくなり「ピアノで遊んでいるときのめちゃくちゃな指づかいに、見かねて口出しをするようなったのがきっかけ」。そうしてレッスンをはじめることになりましたが、「毎日一緒にピアノに向きあうことが、どんなに大変なことか。いつも目が行き届くぶん、ついつい言いたくなってしまって……言葉選びを含めて、伝えることの難しさも感じています。しょっちゅうケンカになってしまって大変です(笑)」

智哉さんは「お母さんとのレッスンは、あんまり緊張感はないかな。こうしたらいいんじゃないかと思ったら、意見も言います」。実の親だから反発もするけれど、気を遣わず何でも言いあえるからこそ、いまでは智哉さんにとってピアノは素直に自分を出せる存在になっています。

自宅でのレッスン、親子でのレッスン。メリハリをつけるために、レッスン時間を決めたり、できるだけ人前で弾く機会をつくるようにしたり、目標を設けながら工夫して練習を進めてきました。また、コンクールやアドバイス付きのステージなどにエントリーすることで、ほかの先生からの講評やコメントも練習に活かしています。

6歳下の妹といつか連弾できる日も

ピアノの魅力について、智哉さんは「音色が好き。赤ちゃんのころから聴いているから、気持ちが落ち着きます。それに、ピアノは一度にたくさんの音を鳴らせるからいろいろな感情や情景をひとりで表現できるのが面白い」。難しくてくじけそうになることもありますが、うまくいったときの達成感を味わえたり、作曲家によってまったく異なる世界観を感じられたり、ほかの人の演奏を聴いて弾きたい曲に出会えるとウキウキしたり、ずっと楽しめる楽器だと感じています。バロックから近現代まで幅広いジャンルが好きですが、お母さんは、「男の子らしい、太くて分厚い音が出るタイプ。これからは古典もしっかり勉強させたいな」と話します。

「将来の大きな夢は、いろいろやりたいことがあってまだ絞れていない」と智哉さん。ピアノのステージが大好きで、コンクールや発表会など、この年は多いときで月に回ステージに立ちました。新幹線で移動することも、いろいろなホールで弾けることも楽しみです。

東京での演奏会の帰りに、はじめての‟どぜう料理”を

「本と、ピアノのステージと、食べたことがない料理を食べるのが好きなので、図書館か本屋さんの近くに住んで、年に数回、遠方のステージに参加して、珍しいものを食べて帰る、というのが小さな夢」と智哉さん。よりたくさんの人に音楽の素晴らしさを届けられるよう、じっくり音楽と向きあい、ステージに立ち、腕を磨き続けたいと考えています。「そんな贅沢をさらっとできる大人になるために、これからしっかりがんばります」。

お母さんは「なにより、親子で音楽を楽しめる時間はとても贅沢です。親としても指導者としても、ピアノを生涯楽しんでほしいという気持ちは常にありますが、これからはお勉強ももう少しがんばってもらいたいなと思っています(笑)」。

 

「ケンカばかり」とのことでしたが、お母様の里砂さんと智哉さんの仲睦まじい様子が画面越しにも伝わってくる、にぎやかでとても楽しいインタビューでした。‟小さな夢”として語ってくれた夢は、智哉さんならではのとてもすてきな夢ですね。それを贅沢なことだとさらっと言えるなんて、十分に大人だと感じました。日本だけではなく世界のいろいろなところで智哉さんの音楽を響かせてくださいね。

※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※インタビューは1月上旬に行いました。

全国大会での堤智哉さんの演奏はこちら